| 2004/07/29〜8/20 |
 |
「動きやすい格好で 帰っておいで」
母の指示だった。
私の夏休みが 始まった。
帰省中、暇な時に読もうと 本を買った。
今思えば、暇などミジンもなかった。
例年になく 暑さが続く札幌の実家では
夏バテした母が 待っていた。
|
|
 |
母は呟いた。
「自転車がパンクして、歩いて買い物に行くから
重たいものが買えないのよ」
ホームセンターまで おして行き パンク修理を
たのむのが、私の最初の仕事になった。
|
|
 |
母は呟いた。
「2階のお父さんの寝室を見ると
闘病の日々を思い出すから辛いのよ」
私は首タオル、手にはプラスドライバーを握り
ベッドのネジをはずし、枠組みを解体し
車庫へ運び入れ、敷いてある絨毯をも撤去。
車庫にある 新しい絨毯を さっと干して
二階へ かついで昇った。
|
|
 |
母は呟いた。
「自転車の後ろに カゴがあると便利よね」
私はホームセンターへ行った。
買ってきたカゴを プラスドライバーで固定した。
母は呟いた。
「これでティッシュが たくさん買えるわね」
私はドラッグストアへ行った。 |
|
 |
母は呟いた。
「新盆だから お父さんの盆提灯を 買わなきゃね。
古い 盆提灯も 出さなきゃね」
古い提灯、ウメばあさんの提灯、親類からの提灯・・・
1号にも手伝いをさせた。
提灯だらけで、配線は 父が嫌がるタコ足になった。
テーブルタップ、トリプルタップ、タコのタコのタコ足状態。
中間スィッチ付きタップ をみつけ、全ての提灯を
ボタン一つで スィッチオン(入)。
入!切!入!切!入!切!入!切!入!切!
「こら! 2号!イタズラするな!」
|
 |
母は呟いた。
「置き型の提灯ばかりだから、お父さんのは
吊り型にしようかな」
父の盆提灯を 買ってきた。
車庫でネジを調達し、脚立を持ってきた。
吊り提灯は乾電池だった。
部屋が 散らかっていたので モザイクをかけた。
このあと、大掃除をした。
とても暑い日だった。
|
|
 |
母は呟いた。
「トイレのドアが渋くて 動きが悪いのよね」
私は車庫へカンナを探しに行った。
立派な カンナが あるはずだが
使ったことはない。
ヤスリがあれば 何とかなるだろう・・・
|
 |
手ごろな カンナをみつけた。
脚立を持ってきて、ドアの上を削った。
母は呟いた。
「和室の襖も 動きが悪いのよね」
襖も はずして削った。
ドアも 襖も スムーズに 動くようになった。
|
|
 |
その日も、30度を超えた 暑い日だった。
銀行でお金をおろし、帰宅するなり母
「ない、ない、キャッシュカードがない!!」
夏バテで ヨロヨロの母は、銀行に電話した。
「家に戻ると カードがないんです。
届いてますか。あ〜良かった。すぐに行きます。
私は 暑さで まいっているので 娘に行かせます」
母は言った。
「15時までわずかだわ。急いでね。自転車で行くと速いよ」
・・・銀行へ行く道は 登り坂だった。
|
|
 |
母は呟いた。
「網戸が汚いから風通しが悪いわね。
いつも、お父さんが きれいにしてくれたのよ」
私は車庫へ脚立とブラシを探しに行った。
ハシゴが必要な所もあった。
|
 |
あとで よく見ると 2号は
ハシゴを 逆から 押さえていた。
2号の力より 私の体重が 勝っていたので
怪我をせずにすんだようだ。良かった。
もちろん、窓ガラスや 桟も掃除した。
|
|
 |
息抜きに ナベダーと 夜のススキノへ出かけた。
ラーメン横丁で 写真を撮った。
ナベダーと 出会って約20年。
ススキノで デートしたのも 約20年前。
そもそも、私と ナベダーとの出会いは・・・
・・・やめておこう、こんな昔話。
ふと見ると、傍らには 変わり果てた姿・・・
それは お互い様か・・・
|
 |
ラーメン横丁を 観光客のふりして 通過した。
石水で 天婦羅を食べ
ジガーバーで カクテルを飲み、
行列の出来るお店で ラーメンを食べた。
よく働いた自分への ご褒美だった。
|
|
 |
ふと、物思いにふける。
父の 闘病生活が 始まってから
父担当の家の仕事が 止まったままだった。
お父さん、今まで ご苦労様だったね。
心安らかに 旅立てるよう
お父さんが やっていた 仕事は全部やったからね。
タコ足配線以外は 心配ないよ。
|
|
 |
新潟へ 帰る準備を始めた頃だった。
ナベムスらが 台所の床下収納を みつけ
床下へ 降りたいと 言うので
玄関にある ハッチを 開けてやった。
カビ臭いニオイがした。
春に通気口を 開ける人が、いなくなったせいか?
ナベムスらが驚いた。「箱から草が伸びているよ」
|
 |
じゃが芋だった。去年の 秋の日付だった。
まだ 父が 元気で歩けた頃に 買ってきて
越冬用に しまい込んだに ちがいない。
父の時間が 止まっても、芋の時間は 止まらない。
母は呟いた。
「お父さんが、ここにも 仕事があるぞ、って
ナベムスらを 床下に呼んだのね」
この片付けが、最後の仕事になった。
|
|
 |
とにも かくにも 働いた。
見ると辛い 闘病中の物は 処分した。
手続きすべき 書類関係も 片付けた。
汗が したたり落ちる 作業も あった。
涙が こぼれる作業も あった。
それでか どうにかこうにか 私の脂肪が落ちた。
|
 |
西山の麺と、ベルのラーメンタレを 持って帰ろう。
ナベダーに 美味しいラーメンを 作ってもらおう。
最後に母は呟いた。
「だいぶ、片付いたね。
続きは また来年 きた時に やればいいね。」
・・・母の呟きは止まらない。
|
|
おわり 来年へ続く |