お父さん、禁煙、2年達成おめでとう。などと、言っても、
なにが、めでたいものか、という顔をして、鼻でフンと笑い飛ばすのでしょうね。
今、2年前を思い出していました。
風邪もひかない健康なお父さんが、入院して、手術だなんて
天と地がひっくりかえったような夏でした。
医者に「タバコはやめた方がいい」と言われ、その一言で、禁煙しましたね。
実に、いさぎよかったのを覚えています。手術前から、禁煙をはじめ、
お見舞いに行った時には、「たばこを吸うんだろう?」とわざわざ、
喫煙室で話をしてくれましたね。 あの時、横でぷかぷかタバコをふかす娘に、
「一本くれ」とも、「タバコをやめろ」とも、何も言わないお父さんは、
どんな気持ちだったのでしょう?
手術の日は、朝から、落ちつきませんでしたね。無理もありません、大手術でした。
それでも、必死に、冷静さを装おっていましたね。
私は、もし何かがあったら、と思うと、とても不安な気持ちでした。
ちょっとだけ病気に詳しくて、
家族に頼りにされているけれど、たいして わかってはいないのです。
でも、そんな私が不安がると、妹やお母さんが 泣き出すかもしれません。
手術室に消えていく、ストレッチャーを見送りながら、唇を、ぎゅっと噛みました。
辛かったのは、その時だけでした。
少し長引いたものの、時折 看護婦さんが「順調ですよ」と知らせてくれたので、
妹と私は、順番に 喫煙所で時間をすごしました。
無事に終わって、執刀医が摘出した肝臓を見せにきました。
滅多にみれるものではないし、悪いものがなくなって何よりですから、しっかり見ておきました。
術後は、痛みとの戦いでしたね。あれなら、たばこどころでは
なかったでしょう。 私と妹がつきそうと、
「大丈夫だ、大丈夫だ、帰っていいぞ、子供達を預けてきたんだろう?」と
心配してくれましたね。
でも、お母さんには、八つ当たりして、
ワガママいいたい放題だったそうですね。
娘にも八つ当たり、してくれて良かったのに、お父さん。
ワガママ言ってくれてよかったのに、
弱いところ見せてくれてよかったのに、
無理しなくて良かったのに、
辛いときは辛い顔してくれてよかったのに、
だって、痛かったでしょ? あんなに、大きくお腹を、切って、
あんなに、たくさん肝臓を切り取ったのだから。
お父さん、いつも頑張リ続けて、走リ続けて、疲れませんか?
娘達も嫁いだし、そろそろ、自分の残された時間を、大事にして下さいね。
2003年、今年も、夏休みに帰ります。楽しみにしていてください。
そう言うと、「楽しみなものか」 「まだ、この痩せ細ったスネ
をかじるのか」 「根こそぎ家の物を、持っていくのか」
しまいには 「帰ってこなくともいいんだぞ」と言うのでしょうね。 そういいながら、
私の大好物を買って、待っているのでしょう。 たまにしか、会えない孫だから、たくさん
遊んでくれるのでしょう。 新潟に戻る時には、色々なものを、持たせてくれるのでしょう。
新潟でも売っているよ、なんて絶対に言いません。
喜んで持って帰ります。
それとね、お父さん、今年の帰省は、いつもとちょっとだけ違うのですよ。
私も禁煙しています。まだ、半年ほどですが、続いています。 もちろん、
お母さんも喜んでくれるでしょう。
そして 妹の焦る顔が 目に浮かびます。楽しい夏になりそうです。